で、来ましたよ。
平穏な夕方、黒づくめの威勢のよすぎる集団が。決してうちの店はそういう店ではなかったし、経営者も違ってたんですが。
まずは段々の底組が入ってきて、「来たど~!」と叫び。
するとちょっと貫禄がありそうなのがひとり入ってくると瞬時に席を確認。すぐにワタクシに向かって、「おう、今から席直すど」と丁寧に表明され、底組を使いつつ勝手に席とテーブルの配置をお直しに。
何度も言いますがワタクシ、馬鹿で若くて正義感もすこし強いので、そのちょっと貫禄ある剃り込みパンチに「あの、そう並べられると蕎麦をお運びできないんですけど」と、言ってしまったり。
底組、いきなり「はあ~?」と、首を前方出し。あああ、またやってしまった。
しかし意外なことに剃り込みパンチ、「それもそうやな。おお、元に戻せ」だってさ、プッ!
底組、また席を直しはじめる。「おまえのせいやど!」と言いたげな目がワタクシを突き刺します。「おやっさんは座敷に上がるから、席は変えんでええんや」だったらなんであんた一度は変えたんや?
その隙にワタクシ、準備。
威勢のよすぎる人というのは大抵「ちょっと無理なこと」を通すことに生き甲斐を感じている。「おしぼりが普通ひとり1本なら2本」「(夏だったので)お茶はキンキンに冷えたものを用意する」「しかも決め手は氷の量なのだ」てなこと。各テーブルの上に人数分より多いおしぼりを山にして配置。氷をたっぷり入れたお茶の瓶も置く。グラスとおちょこも適当に置く。椅子はひいておく。
ワタクシがそれをやりはじめたら「おう、手伝わんかい」と剃り込みパンチが言って、底組がワタクシのまねを。
そうしてる間に重鎮クラスがベンツから降り、店に向かって歩いてくる。
すると先の連中と、小走りに来た連中とが入口に整列。ワタクシ、予想外に整列の先にひとり仁王立ちしながら、入口から入ってくる威勢のいいおじさんと差し向かい状態。
普通のおじいさんが入ってきたと思ったら、その方が一番位の高い方でして、剃り込みパンチが「おやっさん、座敷へどうぞ」と腰をかがめ手をかざすと、「いや、わしは足しんどいさかい、こっちにするわ」と、あっさり入口脇一番下手のテーブルに座ったのである。
ああ、そこは末席だよ!一同一瞬にしてパニックになる。いつもくる、とても威勢のいいおじさんが「ボケ!葬式のあとや。気ぃつかんかい、ドアホ!」と言って、思い切り思い切り剃り込みパンチをしばく。うん、確かに葬式も精進落としも座敷だったろうし、足は窮屈だっただろう。かわいそうなパンチ氏。
次々に重鎮から先に末席に座り始めるということに。座敷はなぜか誰も座らない。おじいさんが座らない以上は座れないのだ。
3つしかないテーブルの末席にはおじさんとそれを囲む重鎮4名様。2番目のテーブルには剃り込みパンチも含めた、ちょい重な人たち6名様。そして3番目のテーブルはまるでインドのバス状態。10名様。
「いらっしゃいませ」と言いながら重鎮席へ熱いお茶も持って行くと、「おまえよう気いつくやんけ」とおじいさんの隣の人から声かけられる。いつものおじさんから「おう、すまんな。とりあえずビールと酒、あとはつまみ適当に出してくれや」と頼まれる。
もちろん若くて馬鹿だけど仕事はできるワタクシ、板場に「すぐ出せるもの」(気が短い方が多いので)「値段が高いもの」(威勢のいいお金の使い方にロマンを感じる、もしくはメンツが立つことに喜ぶ)を多めにオーダーしつつ、ビールと冷酒の蓋をぬく。底組がどんどん運んでくれる。
板わさ、漬物、なめこおろし、じゃこおろしなんかをすぐ用意してもらいつつ、矢継ぎ早に出す。「熱燗つけましょか?」「おお、頼むで。」待たせることなく、酒もつまみも用意。乾杯があって、酒盛りが始まる・・。
とよく見たら飲んでいるのは末席の人たちだけ。???他の人は目の前に酒も肴もあるがじっと我慢している。5分くらいしてようやく許しが出て、10名様も食べ始める。
やがてしめの蕎麦の時間。呼吸をつかんだワタクシ、剃り込みパンチ氏に「どれがあの方のご注文でしょうか?」と聞いたりして。しかし意外なことにパンチ氏、「ええから、できたもんから持ってこいや」と。
言われる通りにしたところ、哀れなことに10名様の前には湯気立ち上るきつねそばやかけそばが並ぶものの、上の方の天とじ蕎麦がまだできない。
4名様の前にお盆付きの天とじ蕎麦が並び、それをある程度食べてからようやく許しが出たものの、その頃には蕎麦はすっかり伸びていたのであった。
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